2020年9月3日木曜日

麻刈り


俳句がブームになって久しい。
先日 麻刈り  という季語を目にした。

あふみのや麻刈る雨の晴間哉   ー蕪村ー

 
麻刈りの様子

 麻刈りの時期 このところ 日本中が雨  数日降り続いていた。

麻ノ繊維ハ 縄トナシ  綱トナシ  降リテ麻布トナス 
 贅ハ 油ヲ絞ル。

春に種をまいた麻は晩夏になると数メートルの高さに成長する。
その強い生命力にあやかって麻の葉文は産着や子供の着物 
女性の襦袢にも使われた。
そのうえ絶縁性が高く昔は雷が鳴ったら蚊帳に入って身を守った。
現在も結界を作り 場を清める道具として神事に欠かせない素材に
なっている。
江戸中期に木綿が普及するまで衣服の中心は麻であり 
藍 紅花とともに三草と呼ばれた。
 


         江戸時代の三草 藍 紅花 麻


新生児産着・麻の葉模様…黄色がなぜ魔よけの色なのか? | 麻の葉柄の初 ... 
麻の葉文の産着柄                組子細工

2015年英国デコレックス展示会で出展された麻の葉柄の椅子と生地


他にも壁材や布団箪笥の湿気取りなどに利用され
内装メーカー東リさんが
以前にケナフ(アオイ科)の壁紙を出している。
施工性の点で今は生産されていないが・・。
実は絞って油にするほか
蕎麦の薬味として七味唐辛子の原料にもなっている優れもの。
改めて麻の威力を見なおしてみたいものだ。



蚊帳
ずいぶんと子供の頃 実家では昼寝の時間や夜に蚊帳を吊っていた。
雷様と蚊帳の記憶も 
昼寝をしない弟が泣くと雷様がおへそを取りに来るから
べそをかきながら蚊帳に入っていた弟の姿のかすかな記憶と
蚊が入るから早く中に入りなさいと
母にたしなめられた光景も断片的に思い出す。

蚊帳の風景

結婚して間もないある日 
母から柳行李に入った蚊帳が届いた。
若い人は行李などは分からないだろうが
茶箱と同様昔は衣類の保存にどの家にもあった。
今はヤフオクで時々見かけるが。
結婚後最初の住まいは広島県福山市だった。
携帯電話もない時代 9時以降は電話代が安くなるので
その時間に母の声を聴いては涙が込み上げた。
夫婦ケンカの時も電話をした。 「好きで一緒になったんでしょ」
遠くに嫁に行ったことを寂しく思っている母の返しの言葉だった。
それにしても蚊帳を送ってくるなんて時代遅れだと半分呆れたものだ。
それはどっしりと重く
白とブルーグリーンの色だったように覚えている。
引っ越しの度に置き場所に困りながらも
「好きで一緒になったんでしょ」という言葉と一緒についてきた。
あれからずいぶんの時が流れ
現在の住まいまではあった気がするが
いつの間にか我が家から蚊帳は行李を残して姿を消した。
一度も使われることはなかった。
今は行李に母の着物が入っている。
麻の繊維を取った後の苧殻は今もお盆に焚く迎え火に使われ 
今夏も親を送った。

送り火に麻の苧殻


コロナ事情で外出の数が減りリモートワークが多くなった。
お気に入りのモスグリーンの麻のワンピースは
光の加減と上半身だけ写るパソコンでは顔写りが悪いのだが
機会をみつけて一度は袖を通そう。
麻は母の思い出と共に蘇ってくるから。
                   202008  長塩小夜子